Scene.35 本屋は夢のなかぁ~!
高円寺文庫センター物語㉟
「おい、聞いたぞ!
チンピラ芸人もどき一匹、しばきあげたんだってな?!」
「また、木田さん。
勘弁してくださいよ。どこで与太話を聞いたんですか?」
「FM高円寺よ。高円寺は、小さいのに猪木やってる芸人までいるしな!
冗談はともかく、ちょっと助けろ。この不景気だろ、フラれた仕事にNOは言えないのよ。ところが、全くの守備範囲外で世界史を違う角度でさばく依頼なんだな」
「ゲゲゲな、仕事ですね。
だったら、ジャストフィットな本がありますよ。『歴史を変えた気候大変動』というので、河出書房からの出版なんですが」
「気候で左右された世界史か、興味深いな。
それって、店長は読んだのか?」
「読んで感心したからこそ、木田さんにおススメできるんじゃないですか」
「わかった!
その本の要旨をかいつまんで、話してくれや」
「天候不順が長く続いて、作物が取れない危機感からイギリスの産業革命や、フランス革命に至った。という、内容ですよ」
「短い!
それじゃ、ヘタな本屋のPOPだろうが!」
「じゃ、泰西名画がポイントで惹かれたんですけどね。
西暦1300年から1800年代の500年間も、ヨーロッパは小氷河期と言われるほど気温が短期的に変動していたんですって。
16世紀のブリューゲル『雪中の狩人』から始まって、漱石の『坊ちゃん』でもおなじみなターナーの絵も光や霞でボォっと霞んでいるし、風景画家のコンクータブルは全作品の75%が雲で覆われた空を描いているんでげすよ」
「ヨーロッパが、産業革命以前は農業大陸だっていうくらいは知ってるさ。世界史の中じゃ、まだまだ田舎だもんな!
そんなことより、その気候変動はなぜなんだ」
「太陽活動・海洋大循環・北大西洋振動という、三大要素が考えられるそうなんですよ。太陽は、黒点やコロナホールが日照時間に影響を与えたようで、海洋大循環はブロッカーのコンベヤベルトという深海の海流移動が、全世界的に」
「わぁった、もういい。それ、買うから!
日本史では、どうなんだよ。なんかあるか?」
「徳川幕府は蓄財で続いてきたが、金庫が空になったとき命運が尽きた。なんていう内容の本はどうですか?
書名と著者は・・・・」
「OK、ありがとう!
それも買うから、両方とも仕入れといてくれよ。3時半からのな、日本対チュニジア戦を観るんだよ!
日本は決勝トーナメント進出が、かかっているんだからな」
Is this the real life
Is this just fantasy
「夢うつつだろ~りえ蔵!」
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